糖尿病講座 14 : 糖尿病治療に新風② −連続血糖測定装置の使用経験から−

当院では’20年9月までに30頭の糖尿病症例に連続血糖測定装置のFree Style リブレ(Abott ジャパン:以下リブレ)を使用しています。今回はこれらの使用経験から、この器機による糖尿病治療の変化について解説致します。

測定原理と器機特性

厳密には間質液(細胞と細胞の間にある液体)中のグルコースを測定しています。このためヒトでは血糖値(血液内のグルコース値)が安定している状態ではほぼ同様となりますが、食事やインスリン投与による血糖の上昇・下降に対しては遅れて変動するといわれています。つまり血糖値の変動に対してタイムラグがあるということですが、その時間差や、測定値の差の程度は個人差があるそうです。

このことは犬猫においても同様で、リブレはグルコース値の下限が40mg/dLですが、実際の血糖値は50〜70mg/dLとなっていることが多いようです。血糖値が持続的に50mg/dL以下となると低血糖発作を起こす危険性が高くなりますが、リブレで50mg/dLとなっても慌てずにブドウ糖を用意して観察して頂くと良いと思います。

リブレセンサーの取り扱い

センサーは底面の粘着剤により皮膚に固定され、中央にある柔らかい針を通してグルコース値を測定しています。センサーの寿命は最長2週間となっていますが、取り扱いにより短縮してしまうことがあります。その主な原因としては以下のようです。

  •  脱落: 今まで2〜3症例でセンサーを気にして取ってしまうことはありました。そのほか突起物などに引っかかって取れてしまったこともあるようです。また発毛の早い症例ではセンサーが浮いてしまうこともあります。
  • 動揺: 寿命の2週間より前に終了してしまったセンサーを取り外すと、軟性の針が曲がっていることが多く見られ、これが寿命を短縮した要因と考えています。恐らくセンサーを揺り動かしたりして、針に負担がかかったのではと考えます。
  • 耐水性: 能書では耐水性は高くシャワーや水泳などは可能としていますが、ヒトと動物では皮膚との圧着に差があると考えますので、装着時のシャンプーは控えるべきと考えます。また、腎不全の併発により皮下点滴を行っている症例では、センサーの針に点滴液が入り込むと測定不能となることがあるため、点滴の部位はできるだけ離すように指導しています。
  • センサーの不具合: センサーは精密器機のため不具合を起こすことがあるようで、ヒトでも1週間ほどで測定不能になった使用例があるようです。

リブレ使用の利点

リブレ使用により信頼性の高いグルコース値を簡単に測定することが出来るようになりました。このことは獣医師にとっても糖尿病の動物にとってもとても大きな意義があります。

  •  DKAの治療革命: 糖尿病の合併症に糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)があり、元気食欲の低下から放置しておくと昏睡に陥る重篤な症状となります。この治療は何度も血糖値を測定する必要があるため、今までは頻回に採血を行わなければならず、この作業はしばしば夜を徹していました。しかしリブレの装着により、夜中でも簡便で頻回なグルコース測定が可能となり、その変動により必要のあるときにだけ、他の項目を測定するための採血を行うようになりました。
  •  血糖コントロール革命: 糖尿病治療は食事とインスリン投与による血糖の変動から、インスリンの投与量を調整することから始まります。このため1〜2時間毎に採血して血糖変動を観察するために入院が必要となりますが、食事を食べてくれない症例や神経質な症例では頭の痛い問題でした。しかしリブレを装着することで、採血することなく1日の血糖変動を観察することができ、しかもストレスのかからない在宅での観察が可能となりました。このため当院でもほとんどの症例で入院の必要がなくなっています。

尿糖測定VSリブレ

当院では在宅での血糖コントロール法として、尿試験紙による排尿毎の尿糖測定を行っていました。尿糖は血糖がおおよそ200mg/dLを上回ると排出されますので、高血糖に対するコントロールには向いていますが、正常血糖以下では排出されなくなりますので、低血糖に対するコントロールはほとんどできませんでした。これに対してリブレは40〜500mg/dlまでのクルコース値を測定することができますので、特に血糖コントロール初期には最適です。

インスリン投与方法にも変化が

血糖コントロールの原則として、食事内容・量とインスリン投与量は朝と晩で全く同じにしています。これは昼間の血糖変動を観察すれば、夜の血糖変動もほぼ同様であると考えているからです。しかしヒトでは夜間に低血糖となることがあり、リブレを装着することで容易に判断することが出来るようになりました。この現象は犬・猫でも起きているようで、実際にリブレを装着している症例で夜間に昼間よりも低血糖傾向となっていることがあります。このような症例では夜のインスリン投与量を0.5U減らして投与するようにしています。つまり、リブレを装着することで、今までの原則に変化が出てくるようになっています。