速効型インスリン(第2世代:レギュラーインスリン)
主な製剤
- ノボリンR(ノボノルディスクファーマ)
- ニューマリンR(日本イーライリリー)
インスリン分子は6つ集まった6量体として結晶化して安定し、レギュラーインスリンはこれを製剤化したものです。このインスリンには投与可能な経路が皮下投与と静脈内投与の2つがあります。
皮下投与は30分〜1時間と短時間で作用効果が発現するので「速効型インスリン」とよばれ、この作用発現は動物でも同様となります。これは皮下投与されたインスリンは6量体のままでは毛細血管内に入っていけないため、2量体あるいは単量体となることで血管内には入り効果を発揮するまでに要する時間となります。
インスリン療法の追加分泌として使用されますが、食前30分に投与する必要があります。
レギュラーインスリンはβ細胞から分泌されるインスリンと同一の構造であることから、静脈注射できる唯一のインスリンであり、投与後血管内では急速に2量体、単量体となり効果を発揮します。
獣医領域では主に静脈投与で用いられることが多く、高血糖時の一時的な血糖低下や糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)でのインスリン療法として希釈による少量持続点滴などの際に使用されます。
超速効型インスリン(第3世代インスリン)
主な製剤
- ノボラピッド(ノボノルディスクファーマ)
- ヒューマログ(日本イーライリリー)
など
強化インスリン療法の追加分泌として速効型インスリンは食前30分に投与しなければならなかったため、食後に投与できるように開発された第3世代のインスリンアナログ製剤となります。
インスリンの構造を一部変更することによって2 量体の形成を阻害することで6 量体から 単量体への解離を速やかにし、投与後速やかに毛細血管内へ移行できることで10〜20分後に作用発現するようになります。
このインスリン製剤はほぼ使用する機会はなく、数例の使用経験だけです。
ただし、よく使用する混合型製剤はこのインスリンを基本としています
中間型インスリン(NPHインスリン)
主な製剤
- ノボリンN(ノボノルディスクファーマ)
- ヒューマリンN(日本イーライリリー)
- 第3世代:ヒューマログN(日本イーライリリー、超短時間型+プロタミン)
速効型あるいは超速効型インスリンに、タンパク質のプロタミン(ニジマスの精子由来蛋白)を加えてイソフェンインスリン(neutral protamine hagedorn:NPH)として作用時間を長くした水性懸濁製剤となります。
ヒトでの作用発現時間は投与後1~3時間、作用持続時間は18~24時間となります。
動物においても短時間型インスリンと同様に作用にピークがあり、犬では投与後1~3時間で作用発現して4~8時間まで作用のピークとなり、10~12時間作用の持続を認めます。
懸濁製剤のため使用前には十分に混和する必要があります。
犬での第一選択薬として使用しています。
混合型インスリン(2相性インスリン)
主な製剤
- 第2世代:ノボリン30R(ノボノルディスクファーマ)
- ヒューマリン3/7(日本イーライリリー)
- 第3世代 :ノボラピッド30ミックス(ノボノルディスクファーマ)
- ヒューマログミックス25(日本イーライリリー)など
速効型あるいは超速効型インスリンとそれぞれの中間型インスリンを混合することで作用発現の早さと中間型の作用持続性をあわせもち1 剤で強化インスリン療法となる製剤とな
ります。
速効型、超速効型と中間型の混合比率の変更することによりインスリン挙動の調整が可能
となります。
アルマ動物病院では速効型(超速効型):中間型が3:7の製剤を常備しています。
犬の糖尿病に対して中間型インスリン(イソフェンインスリン(neutral protaminehagedorn:NPH)製剤投与によっても食後高血糖が強い症例に使用します。
持効型インスリン
基礎分泌を再現するために開発されたインスリン製剤となります。
現在ヒトの持効型インスリンは全て第3世代のインスリンアナログであり、以下の4つの種類がありそれぞれに特徴あります。
また、本邦では動物用として販売されているインスリン製剤であるプロジンクはこの種類となります
- グラルギン:ランタス
- デテミル:レベミル
- デグルデク:トレシーバ
- イコデク:アウィクリ
グラルギン(第3世代)
主な製剤
- ランタス (サノフィ )、
- インスリングラルギン(日本イーライリリー、富士フイルムファーマ)
など
持効型のインスリンアナログ製剤として最初に開発されました
インスリン構造変更としてはA鎖C末端アスパラギンをグリシンに置換し、B鎖C末端にアルギニンを2個追加したものとなります
酸性物質となる本剤は中性の皮下に投与することで等電点沈澱し、その後に緩徐に溶解して持続した効果を示します
動物においても12 時間の効果で1日2 回投与となり、投与後 5~7 時間にわずかな効果のピークを認めます
猫での第一選択薬として使用されますが、酸性製剤のため注入時に疼痛を訴えることがあり、これがトラウマとなって投与困難となる症例がいます
アルマ動物病院では現在ランタスはほとんど使用していません
デテミル(第3世代)
主な製剤
- レベミル(ノボノルディスクファーマ)
グラルギン(主な製剤:ランタス (サノフィ )、 インスリングラルギン(日本イーライリリー、富士フイルムファーマ)など)の次に開発された持効型インスリン製剤であり、インスリン構造変更としてはB鎖C末端のトレオニンを除き、脂肪酸(ミリスチン酸)を結合したものとなります
ミリスチン酸はアルブミンとの親和性が高いため、投与後にアルブミンと結合してから緩徐に溶解することで持続した効果を示します
このアルブミンとの結合は非常に強いことから、ほかのインスリン製剤と同等の効果を得るために、4倍の濃度を1単位としています
これに対して犬ではほかのインスリン製剤と同等の濃度で効果を発揮します
つまり1単位にてほかのインスリンのほぼ4倍の効果を示します
このため、他剤からデテミル(主な製剤:レベミル(ノボノルディスクファーマ))へ変更する際には4 分の1量からスタートします
一方猫では犬ほどの効果は示さないものの、私見となりますが他剤と比較してほぼ2~3倍の効果を示します
このため他剤から変更の際には 2 分の1~3 分の1量からスタートしています
デグルデク(第3世代)
主な製剤
- トレシーバ(ノボノルディスクファーマ)
デテミルの次により安定して一定した効果をしめす持効型インスリンとして開発されました
インスリン構造変更としてはB鎖C末端のトレオニンを除き、グルタミン酸と脂肪酸(ヘキサデカン二酸)を結合し、さらにフェノールを加えています
皮下投与によりこのフェノールが拡散することで脂肪酸を介して6量体のインスリンがいくつも結合するマルチヘキサマーを形成し、そこから緩徐に溶解することでもっとも平坦で持続した効果を示します
ヒト人では数日かけて徐々に血糖降下作用を発揮します
動物においても本剤はもっとも安定して一定した推移を示します
このため猫での第一選択薬として使用しています
また犬でも強化インスリン療法での基礎分泌に対応するインスリン製剤として使用しています
プロタミン亜鉛インスリン(PZI 第2世代)
主な製剤
- プロジンク(ベーリンガーインゲルハイムベトメディカジャパン)
プロタミン亜鉛インスリン(PZI)はインスリンの効果を持続させるために開発されたインスリンであり、中間型インスリン(NPHインスリン)よりも多量のプロタミンと亜鉛を添加することでより持続した効果を示します
プロジンクは本邦にて2016年に猫での使用認証をとり、現在では犬でも使用認証を取得しています
唯一の動物用のインスリン製剤ですが、内容は第2世代のヒトインスリンとなります
そして現在ヒトのインスリン製剤は全て国際基準となる1mLあたり100単位であるのに対して、ヒトでも以前に使用されていた1ml あたり40単位と“薄い“濃度のインスリン製剤となります
このため専用のシリンジが用意されています
ごく少量のインスリンによる血糖コントロールが必要となる症例に使用しています
また、インスリンの頻回投与により形成される皮下組織の硬結も、濃度が低いためにできにくいという利点があります
イコデク(第3世代)
主な製剤
- アウィクリ(ノボノルディスクファーマ)

強化インスリン療法において投与回数を減らす目的として、2025年1月に週1回投与により基礎分泌の効果を示す長時間型のインスリンアナログ製剤として発売されました
このインスリンアナログ製剤は3つのアミノ酸を置換し、さらに親水性リンカーを介した脂肪酸(イコサン二酸)を付加しています
インスリン分解酵素にたいする感受性を低下させることにより高い分子安定性とインスリン受容体との結合能低下、またアルブミンとの強力かつ可逆的な結合による組織拡散の遅延と腎排泄の阻害から効果を安定的に持続させることができます
まだ動物に対する使用報告はありませんが、開発時の動物試験では犬でも効果があることを認めています
数例の犬において使用していますが、一定の効果を認めています
猫では持効型製剤が第一選択となりますが、この製剤が安定した効果を示すようであれば1週間前後に1回投与することで良いことになり、新しい治療法として期待できます